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  スカウト運動の基本原則

 

 ボーイスカウトの教育についてお話する前に、このボーイスカウトの理念について触れておきます。

●世界スカウト機構憲章

 

 スカウト運動における「基本原則(Fundamental Principles)」は、世界中のスカウト運動を結びつける共通の基準となっています。言い換えれば、この「基本原則」に則らない活動は、スカウト運動ではない活動ということになりかねません。

 「基本原則」は、世界スカウト機構(WOSM: World Organization of the Scout Movement)の世界スカウト機構憲章第1章に述べられており、これがWOSMの全加盟連盟を特徴づけています。

 世界スカウト機構憲章(次ページ)にあるとおり、スカウト運動の「基本原則」は、以下の4つの項目で構成されています。

 

    ・スカウト運動の定義

    ・スカウト運動の目的

    ・スカウト運動の原理とちかいとおきて

    ・スカウト運動の方法(スカウト教育法)

 

 これらの基本的な原則や方針に則って、ボーイスカウト運動は行われているのです。

 

 では、あらためまして、「基本原則」の各項目を確認してみましょう。

 

 

●スカウト運動の定義

 

 スカウト運動は「創始者によって考案された目的、原理、方法および以下に述べる事項に従って、性別、出生、人種、信条による区別なく誰をも対象とした、青少年のための自発的で非政治的な教育的運動」と定義されています。

 この運動は、全ての青少年に公平に開かれた活動であり、スカウトの意思を最大限に活かした活動をすることが必要となり、スカウトの憧れや興味、ニーズなどを反映したプログラムを展開し、スカウトの自発的な活動意欲を促進していきます。

 また、スカウト運動は非政治的な運動であるという基本的なスタンスをとっています。

 

 

●スカウト運動の目的

 

 スカウト運動の目的は「青少年が個人として、責任ある市民として、地域、国、国際社会の一員として自らの肉体的、知的、情緒的、社会的、精神的可能性を十分に達成できるように青少年の発達に貢献すること」であります。

 基本的な教育原理として、人のもつ肉体的、知的、情緒的、社会的、精神的等の側面は、それぞれが有機的に関連して青少年の発達に影響するものであり、この目的はさまざまな要素が統合されたものです。

 スカウト運動は、責任ある市民を育てる運動です。スカウトには、自分は、生活している地域社会の中の一員であり、さらには、日本の国家及び国際社会の一員であるということを積極的に指導していきましょう。責任ある市民としては、そこには市民としての権利と義務があるということを知っておくことも必要です。

 プログラム活動において、社会のルールやマナーを気づかせるプログラムを計画することも、市民性を育てるうえでは、大切なプログラムといえます。例えば、ゲーム等においてもルールを守らせることが必要となり、指導者はその点でも厳正な立場でプログラムを運営することが大切となり、そのような取り組みが、市民性を育てるプログラムに繋がるということにもなります。



●スカウト運動の原理

 

 原理は、目的を達成する際に守らなければならない基本的な規則と信念のことで、その原理は、スカウト運動全ての加盟員を特徴づける行動規範を表したものです。

 スカウト運動では、

 

    「神へのつとめ」

    「他へのつとめ」

    「自分へのつとめ」

 

という3つの原理に基礎が置かれ、スカウト運動の基本的な信念を表しています。

 信仰はスカウト運動の根底にある根本的な要素であり、スカウト運動の教育上のその取り組みは、青少年が人生の精神的価値を探し求めることを手助けすることになります。

 自分の国のみを考える偏狭な愛国心でなく、他の国々の主張にも正義を認め、幅広く崇高なものとして考えることが、国際的な友好関係につなげることができます。スカウト運動は、誕生して以来、全ての国々の青少年の間に友情と理解を促進することが重要であると考えてきました。また、自然を尊重するという考えは、自然保護の考え方を示してものであり、これは常にスカウト運動の基本です。

 自分自身の発達に対する責任という考えは、スカウト運動の教育目的そのものです。そして、ちかいとおきての実践が、その基本になっています。

 スカウト運動の方法(スカウト教育法の7つの要素)

 

 スカウト運動の方法は、目標を達成する際に用いられる手段であり、この方法はスカウト運動の原理に基づいているものです。

 スカウト運動の方法がスカウト教育法と呼ばれるのは、いくつかの教育手段によって構成されているからです。それは、「ちかいとおきて」「行うことによって学ぶ」「小グループでの活動」「象徴的枠組」「個人の進歩」「自然の中での活動」「成人の支援」です。それらの手段はスカウト教育法の要素として、それぞれが相互に関連し相乗作用をすることで全体を構成しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●ちかいとおきて

  • スカウト教育法において、全ての方法の中心的存在であり、その核となるものです。
  • スカウトのちかいは、この運動に参加する全ての青少年が、仲間の前でする誓約であり、それによりスカウトのおきてを知っていることを認め、その行動規範に従い最善を尽くすことを自分自身が約束することになります。
  • スカウトのおきては、スカウトたちが、社会生活をするにあたっての「きまり」であり、「行動における価値基準」であり「生活信条」となるものがこれです。
  • これらは、押しつけられるものではなく、自らがそれを守る、守ろうと努力をすることで、自らの成長を促していきます。

 

●行うことによって学ぶ

  • 行うことによって学ぶことは、直接体験したことによって成長することを意味します。それは何よりも効率的な教師であるとも言われています。知識や技能を自分のものにしていくには、実際に行ってみることが大切です。
  • 行うことによって学ぶことは、青少年が経験する全てのものから自分にとって重要なものを引き出し、成長することを促進する方法となります。
  • 行うことによって学ぶことは、人生に積極的に取り組むようにさせることであり、社会の中の傍観者ではなく、行動する者になるようにすることに繋がります。
  • また、自分一人だけでなく、集団の中で起こる出来事やお互いの関係からも多くの事が学ぶことができます。そして何よりも将来成人になったとき、高いレベルでのバランスがとれているように、さまざまな領域の発達ができるような教育プログラムを提供しています。

 

●小グループでの活動

  • 青少年は、自分とほぼ同年代のメンバーで自然に小集団をつくる傾向があります。ボーイスカウトでは、班・組と呼ばれる6〜8人の異年齢のスカウトで構成される小グループが活動の単位です。
  • ここでスカウトたちは、自分に与えられた役割を果たすことで自発性や責任感を、班・組のために行動することで協調性やチームワーク、リーダーシップ等を、先輩が後輩を教えることでより深い知識と技能を、そして班や組が競い合い切磋琢磨していくことで、更に高度で深い人間関係が養なわれ、高度な活動へと発展し、社会人として大切な資質を養っていきます。
  • ベーデン-パウエルが考えた「パトロールシステム」は、スカウトのおきてに基づき組織された機構と民主的な自治システムを形成していて、メンバーがそのグループの中で責任を分担しているものです。

 

●象徴的枠組み

  • スカウト運動において、象徴的な枠組みとはスカウト運動が推進したい概念を表す一連の要素です。私たちの運動のスカウト運動そのものも、ベーデン-パウエルが考案した象徴的な枠組みであり、少年たちを引きつけるようと考えられたものです。
  • さまざまな年齢の青少年のニーズに応じるために、各年齢層別の部門は中心となるテーマ(子供たちの寓話、伝説上の英雄、歴史的なものにヒントを得たもの、あるいは全くの創作にヒントを得たもの)を示すような象徴的な枠組をもって取り組まれています。
  • よく子供達は、アニメや映画の登場人物になりきって遊びをしています。それが子供達にとってとても楽しく夢中になれるものでもあり、また自然の姿なのです。
  • ボーイスカウトの活動でも、集会のプログラムにこのような想定を設けたり、ストーリー性のあるプログラムで活動を行っています。それによって好奇心を湧き起こし、イメージを膨らませ、目標を明確にすることができます。そこにいろいろな教育的要素を盛り込んでプログラムが作られています。
  • 象徴的な枠組みは、青少年が元々持っている想像力、冒険心、創造力、発想力といった資質を基にしています。

 

●自然の中での活動

  • ボーイスカウトでは、よくキャンプやハイキングをします。それ以外の活動も基本的に戸外や野外を主として行っています。
  •  それは、自然界から得られるたくさんの恩恵に感謝する心を育むこと。健康な心と体をつくること。大自然の驚異に感動し情緒を深めること。自然の脅威を感じることで傲ることなく、また絶対主の存在を意識すること。協力すること、強調することの大切さを体得すること、そして生きる術を身につけることなど、実に様々なことを身につけることができる場であるからです。
  • スカウト教育法の一要素としての自然とは、自然界が青少年の発達のために与えてくれる計り知れない可能性のことであり、スカウト教育法が適用できる理想的な活動の場を提供することを意図しています。

  自然は、様々な面でスカウトの個人的な発達に貢献します。

  1. 肉体的発達
  2. 自然は、新鮮で汚染されない空気、エネルギーを消費する空間、肉体的活動をする機会、我慢することを試す機会、チームで協調すること等を与えてくれます。
  3. 知的発達
  4. スカウトにとって自然は、探検したり、感覚を発達させたり、観察技術や様々な能力を伸ばす機会を提供してくれます。自然の中で青少年は、相互に依存し、人間関係の繋がりに気づき、自然のシステムの機能を理解する機会も与えてくれます。
  5. 情緒的発達
  6. 自然は、感情や情緒を探求する多くの機会を与えてくれます
  7. 自然の中での平和で安らかな静けさは、私たちを、日常の問題や苛立ちから解放してくれます。
  8. 社会的発達
  9. 自然の中では、青少年が互いに長所と短所を持った者同士であることを分らせることができます。
  10. 自然の中で直面した問題では、互いに助け合わなければならず、都市生活ではあまり得られない連帯感を築くのに利用できます。
  11. 精神的発達
  12. 自然界の多くの驚異を発見し、注意深く観察することで、精神的な自覚をすることができす。
  13. 例えば、昆虫の生活を観察したり、夜空の流れ星を見ながら神秘的な宇宙を感じたりすることで、自分の存在を考え、自然への畏敬の念を感じることができます。

 

●個人の進歩

  • 個人の進歩は、青少年一人ひとりが自分自身の発達を意識し、積極的に関わることに焦点を当てています。また、進歩課程は、スカウト教育法の主要なもので、青少年に知的、技能、態度の側面での発達を期待し設定されています。その進歩課程は、青少年に魅力的で刺激的な方法で提示されています。
  • 興味のあることを追及できたり、才能に気付いたり、達成感を感じることは、青少年にとって極めて重要なことです。スカウトには、自分のやり方で自らの視野を広げ、成長する、その機会を提供することが必要です。
  • ボーイスカウトでは、子供達がそれぞれの年代に身につけておくべきコトを「進歩課目」として設定しています。この進歩課目は、学校や塾の勉強とはちがい、外圧によってやらされるものではなく、子供の内面を刺激して「やってみたい」と思うようなものになっています。
  • 進歩したことは、認められるべきで、自分が進歩・成長したということを知り達成感を得ることが大ことです。更に、他の人達がそれに気づくことが必要です。称賛の声をかけ、そのスカウトのやる気を維持することも重要なことです。そこで、ボーイスカウトでは、1つの分野の進歩課目を終了すると、特別なバッジがもらえます。バッジの授与は、スカウトにとって達成したことの重要な証明になります。そして、その達成感は、さらに前進しようというやる気を再び作り出すことに役立ちます。

 

●成人の支援

  • 子供達の成長は、子供達だけで成し遂げられるものではありません。
  • ボーイスカウトでは、子供達は「自発性」をもって活動するコトを求められますが、そこには多くの成人指導者や保護者、地域の人々)の関わりと支援があってはじめて、スカウト運動が求めている目的へと向かうことができるのです。
  • スカウト運動において、成人の支援は成人と青少年の間の自発的な協力関係を含むものであり、この協力関係において、成人指導者はスカウトの自己学習を促進していくことです。成人指導者の青少年に対する支援は、教育的支援であり、青少年一人ひとりが成長することを助けることを目指します。
  •  スカウト教育法としての成人の支援は、成人と青少年が一人の人間として互いに尊重し、信頼し、受け入れることを基に、両者に豊かな学習環境をもたらすものです。また、その協力関係において、自分の務めを果たし、意思決定に参加し、責任を分担し、皆のためになるような建設的な雰囲気が必要です。
  • また、ボーイスカウトでは、保護者や地域の方々に「人的・物的」な様々な形での支援をお願いしています。